2009/07/14

愛知学院モーニングセミナー

今朝、愛知学院大学モーニングセミナーに出かけました。
本日の演目は『たかべしげこの朗読から宮澤賢治の世界を見てみる』-「なめとこ山の熊」から考えてみよう・・・現代社会を!
講師は名古屋音楽大学大学院教授たかべしげこさん。
たかべさんは俳優であり、演出家です。

本日の眼目は何と言ってもプロの俳優による「なめとこ山の熊」の朗読。
プロの口舌とはかくも明瞭で滑らか、しかも表現豊かだったかと改めて感心しました。

このストーリーは、なめとこ山辺りを猟場としている淵沢小十郎と熊との交流です。
意に反しながらも熊の狩猟を生業としている小十郎。仕留めた熊の毛皮と熊の胆(い)を町の商家に売ることで年老いた母と孫たちを養っています。そしてある日、猟に失敗して熊に殺される。熊たちは小十郎を手厚く葬るというヒトと熊との交流を原初宗教的に描いています。

なめとこ山は岩手県に実在します。わたしは今から30年以上前、単車で近くまで登りました。何の変哲もない山ですが、半世紀前、賢治が実際に歩き回り、淵沢小十郎という創作された人物が熊を追って山深く分け入ったのかと想像することで大いに感動した記憶があります。

ストーリーの中に小十郎と荒物屋の旦那の一節があります。
足元を見られて毛皮も熊の胆も安く買いたたかれる小十郎。
したたかな旦那。
この光景はおそらく賢治が幼いころから目の当たりにしていた実体験に基づいていることでしょう。
賢治の家は大地主で質屋と古着屋も兼務していました。さらに賢治の母方の祖父は大変裕福な商家です。この旦那のモデルは祖父ではないかとされています。
こうした弱者からの搾取によって自分の生活が成り立つことに嫌悪を抱いた賢治は父親と反目し、家とは異なった宗教に入信、父親を困らせます。
結局父親は商売を弟(お会いしたことがあります)に継がせ、賢治は生涯を父の経済的庇護のもとで暮らすことになります。4年間だけ農学校の教師で俸給を得ますが、多くはレコードなどに消費していたようで、金持ちの道楽の域をでていません。

しかし弱者救済への思いは強かったようで、冷害を無くすために人工的に火山を噴火させ、温室ガス効果で温暖化を招こうなどという壮大なストーリーも書いています。「グスコンブドリの伝記」ですね。

賢治は現代のエコロジーや有機農業の開祖のように持ち上げられることもありますが、彼は化学肥料を推進して農業を発展させようと考えていましたし、科学の力で農民の労力を減らしたいと強く考えていました。

教育や宗教にも関心が深かったのですが、労農党への傾斜は警察沙汰となり、所属した宗教団体は大東亜共栄圏の基礎になった過激なものでした。

賢治礼讃は極めて危険です。
十分に批判しながら、その描かれた世界を楽しみたいものです。

愛知学院大学HP

こちらで当日の講演がご覧になれます。

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