2010/05/01

按蹻導引5・1


 心臓は最も大事な臓器だと考えられています。なぜなら常に動いており、もし停止したらそれで寿命は尽きてしまいますから。したがって生命に与える緊急性が他の臓器とは比較になりません。それは心臓が他の臓器のような化学的代謝作用を主とするものではなく、ポンプとして物理的に動き続けているからです。そのリズムはやはり物理的な電気刺激で行われています。それでペースメーカーという器械で心拍の調整が可能なのです。

 また、心臓は心の状態が如実に現れる臓器でもあります。驚いたり心配したりするとドキドキと拍動が速まり、心理状態と連動するように感じられます。さらに心臓が止まると人は死んでしまいます。それで心臓は古来から命の宿る内臓と考えられてきました。

心臓は専門的な検査を除けば脈拍や血圧など家庭でも簡単に測定できます。

血圧は心臓の収縮力を数字化したものです。数値が高い時は血液を強く押し出しているので、身体に何らかの血液の流れ難い状況、あるいはたくさんの血液を必要としているという状態を想定できます。また低すぎる時は心臓の力の低下を表します。一般的には最高血圧120、最低血圧80、脈圧40を理想としていますが個人差があります。

脈拍は心臓が打つ速さ。通常1分の間に70から80位打つのが普通です。マラソンやサッカーなど、心肺機能を鍛えた運動選手などは50を切ることもめずらしくありません。

心臓の重大な異変は非常な恐怖感を伴うともいいます。また心臓の発作時、胸や腹、背中、上肢などに放散する痛みや痺れが生じますから、腹痛など他の病気と勘違いすることもあります。いずれにしても心臓の異常を感じたら一刻を争いますから速やかに医療を受けなければなりません。

心臓の解剖図・・ここがわかりやすいです。

こころの象徴
 漢字の「心」は心臓の象形文字です。また西洋のハートの形も心臓の形を絵にしたものです。洋の東西を問わず、心臓に「こころ」を重ねていたことが分かります。手近な辞書をみます。

しん【心】
「(1)こころ。精神。(2)心のそこ。本心(3)ものの中央。」『広辞苑』

こころ【心】
「1 人間の体の中にあって、広く精神活動をつかさどるもとになると考えられるもの。
(1)人間の精神活動を知・情・意に分けた時、知を除いた情・意をつかさどる能力。喜怒哀楽・快不快・美醜・善悪などを判断し、その人の人格を決定するものと考えられるもの。(2)気持ちの状態。感情。(3)思慮分別。判断力。(4)相手を思いやる気持ち。また、誠意。(5)本当の気持ち。表面には出さない思い。本心
2 物事の奥底にある事柄。
3 心臓。胸。」『広辞苑』

 心臓は緊張したときなどどきどきと自覚できます。また恋をしているときはキュンと苦しくなります。そんな体験からこころと心臓が一体化して感得されていたと想像できます。

人体学的な心臓
解剖学では心臓の構造を明らかにしています。上下に二つずつの部屋を持ち、血液を肺と他の器官に分配して送り出しています。

心臓
循環器系の中枢器官。血液を血管中に押し出し循環させる働きをする。魚類では一心房一心室、両生類では二心房一心室、鳥類・哺乳類では二心房二心室に分かれる。人間の心臓は胸腔内の中央より左にあり、握りこぶしよりやや大きい。」『大辞林』

 心臓は胸の中心やや左よりにあります。手で触れたり耳を当てるとリズミカルに動いていることが分かります。心臓の大きさは握りこぶし大です。

 では、次に医学辞典で心臓を調べてみます。
心臓
「全身血液循環系の中央原動力。位置は前胸縦隔腔中、すなわち両肺に挟まれて正中線より左に偏して存在する。桃実状の筋質からなる中腔の器官で表面は心膜(包)と呼ぶ漿液膜に包まれ、内部は心室中隔、心房中隔、房室弁があって右心房、右心室、左心房、左心室の4腔部に分かれている。右心室と右心房との間にある弁膜は三弁に分かれており、三尖弁と呼ばれ、左心室と左心房との間にある弁膜は二弁よりなり、二尖弁、または僧坊弁という。左右各心室から動脈の出る部分に半月形の三弁からなる弁膜があり、大動脈基部にあるのを大動脈弁、肺動脈基部にあるのを肺動脈弁と称する。大きさは大体こぶし大、重さは成人で約300グラムである。」『医学大辞典』(南山堂)

 専門辞書は難しいので、子供用の図鑑を見てみましょう。

心臓
むかしの人は、ものを考える心が胸のあたりにあるのだと考えて、心臓という名まえをつけました。もちろん、心臓には、そのようなはたらきはありません。また、心臓の動きが止まると死んでしまうことから、いのちは、心臓にやどっていると考えた人もいました。これも、まちがいです。からだ全体が、うまくはたらくから生きていけるので、どの部分がだめになっても、いのちはあぶないのです。とはいうものの、たしかに心臓は、からだの中のいろいろな部分のうちでも、とくにたいせつなはたらきをしています。しかも、一生の間、少しも休まず、きそく正しくはたらきづつけているのです。
心臓のあるところ
心臓は、にぎりこぶしより少し大きく、胸のまん中より少し左にあります。
心臓はポンプ
心臓は、2つのポンプが組み合わさってできています。右がわに、血液を肺へ送るポンプ、左がわに血液をからだじゅうに送るポンプ。この2つが、いつも同時に、リズムを合わせてはたらいているのです。ふつう、1分間に70回。1回におよそ45ccの血液を、きそく正しく、血管へ送り出しています。」『人とからだ』(学研の図鑑)

 やはり子供用図鑑は分かりやすいです。昔から心臓にいのちやこころがあると思われたのはその動きが自覚できるからでしょう。心臓はそういう具合に実感しやすい臓器です。しかし実際には心臓は単なるポンプです。肺と全身。二つの方向に送り出す二つのポンプからできているのです。

東洋医療における心
中国では心臓を以下のように考えてきました。

心臓
神を臓する。
火の性質の臓として腎の陰に対して陽の働きをする。
五臓六腑を統括し、知覚・記憶・思考・意識・判断などの精神活動の支配、五臓六腑の調和を保つ。
生の本、君主の官。
血脈を司る。
脈を介して血を全身にくまなく運行させる。に開竅(かいきょう)している。
液は 志は喜 五行は火
経は手の少陰心経(てのしょういんしんけい)

 経絡を辞書で調べてみます。

心(しん)
「五臓中最も重要な臓器で、血液運行の中心であり、先天の陽気が宿る。『素問』に「心は神を蔵す」、「心は生の本、神の変ずるところなり」とあり、精神作用と関係することを強調している。また五臓の中心であるため、「心が衰えるとすべての臓器にも影響する」と述べている。心の病には、動悸、恐怖、不眠、胸苦しさ、汗がよく出るなどがあり、舌が赤くなる。心を保護するために心包があって、心の機能を補助している。」『鍼灸医学辞典』(医道の日本社)

 東洋医療の心は臓器としての心臓よりもむしろ精神の座としての趣があります。先に紹介した人体学の生理解剖とはかなり異なります。ここから東洋医療が素朴な解剖と現象観察、さらに体感的に確立されたことが窺えます。
 分かりにくい用語を同じ辞書から引きます。

神(しん)
「人の生命活動の根源になる2つの要素(神、精)のひとつをいう。神は心臓に、精は腎に宿るとされており、先天の気であるとともに、生後、取り入れられる飲食物などによって、補充されて、生命活動の根源的なはたらきをする。現代医学的解釈をすれば、神気とは神経系のはたらきを、精気とは内分泌系のはたらきを指すと考えられる。神気が充実していれば健康で各器官の機能が旺盛であるとされている。」『鍼灸医学辞典』(医道の日本社)

 中国での「神」は、いわゆる神様とは全く異なっていることに注意してください

次に心理学的影響の強い経絡指圧の本を紹介します。

「感情的な統制機能であるこころを意味し、外界の刺激を五感で受けて内界の適応作用に転換する働きをし、また体内気血の配分をして全身の働きを統制しています。そのような精神の状態は心臓症状として自覚されるので、昔はこころが胸にあると考えたのです。症状としては、疲れやショックによる神経緊張、心配ごと、胸のつかえがあり、舌がつれてどもったり、のみこむときに何かあたったり、つかえるような感じで、よく咳ばらいをするようになります。このためガンになったのではと、ガンノイローゼになる人もよくみられます。また心臓が常に気になったり、のぼせて顔がほてるとか手が汗ばむといった症状もあります。」『スジとツボの健康法』(増永静人著)

心経の働きは極めて心理的なものです。瞑想や熟考のときの姿勢を想像してください。仏像もキリストのアイコンもロダンの考える人も皆、肘を畳む姿勢です。肘を畳むと心身はコンパクトに集中することができるのです。

心の経絡

心経
「上肢の内側と胸をめぐる経脈で、所属する経穴はわずか9穴である。直接関与する臓腑は、心、小腸であるが、肺を貫くため、肺との関連性が強く、また間接的には、脾、肝、腎に関与する。また心は五行で君火とされており、心臓固有の障害に用いられる。経脈の性質は気血ともに多い。その流注は、脾経の分れを受けて、心臓に起こり、大動脈をめぐり、次いで腹部に下って小腸をまとう。1つの分れは大動脈から上行して、咽頭をとおって眼球の深部まで達する。またもう1つは肺にのぼって、脇の下に出て、手の内面後側をまわって、小指の末端(内側)に終わる。心経は、心臓の気質的疾患、動悸、息切れなど、心臓病に用いられる。」『鍼灸医学辞典』(医道の日本社)

 脇の下から上腕三頭筋の内側を通って前腕掌側の小指側を小指の先、薬指側まで走ります。
 心筋梗塞発作の人の訴える痺れの流れと似ているとされています。

古典に書かれた経絡の流注(流れ)
心中に起こり、心に属し、横隔膜を下って小腸を絡う。その支なるものは心より上行して咽を挟み目につながる。直行するものは、心より肺に上り、下って腋下に出て上腕内側を下り、肘の内側(少海穴)に出て、前腕内側小指側を通って手関節内側の豆状骨上際(神門穴)を経て、小指の末端橈側に終わり、手の太陽小腸経に連なる。



手の少陰心経に所属する経穴の一覧
HT1.極泉(きょくせん)
取穴部位:腋窩の中央、腋窩動脈拍動部
HT2.青霊(せいれい)
取穴部位:少海穴から極泉穴に向かい上3寸、上腕を外転外旋して取る。骨神経幹が走る。上腕動脈が通る。禁鍼穴
HT3.少海(しょうかい)
取穴部位:肘を半ば屈曲し、肘窩横紋の内端で、上腕骨内側上顆から橈側へ入ること5
要穴:合水穴
HT4.霊道(れいどう)
取穴部位:前腕前尺側にあり、神門穴の上15分、尺側手根屈筋腱の橈側、霊道穴から神門穴まで尺骨神経幹が走り、尺骨動脈が通る。
要穴:経金穴
HT5.通里(つうり)
取穴部位:前腕前尺側にあり、神門穴の上1寸、尺側手根屈筋腱の橈側
要穴:絡穴
HT6.陰郄(いんげき)
取穴部位:前腕前尺側にあり、神門穴の上5分、尺側手根屈筋腱の橈側
要穴:郄穴
HT7.神門(しんもん)
兵法:内尺澤(うちしゃくたく)
取穴部位:手関節掌側横紋の尺側にあり、豆状骨の上際で尺側手根屈筋腱の橈側
要穴:兪土穴、原穴
HT8.少府(しょうふ)
取穴部位:手掌部にあり、指を屈し、薬指と小指の指尖が手掌に当たるところの中間、手掌の第4・第5中手骨間
要穴:滎火穴
HT9.少衝(しょうしょう)
取穴部位:小指橈側爪甲根部、爪甲の角を去ること1
要穴:井木穴







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