2020/07/25

『慢性病のサイエンス』 脳からみた痛みの機序と治療戦略 半場道子著

昨年、八事整形会で著者の半場先生から慢性痛に関して直接お話しを聞く機会があった。
この著書の46から47頁に興味深い記述がある。Placebo analgesia(プラセボ鎮痛)と脳内変化の項である。

「Placebo analgesiaが一定値を保つように調節した実験系で、被験者に対し『研究中の薬の鎮痛効果を検定するために、これから薬を静脈に注入する』と音声で予告してから、0.9%生理食塩水1㎖を静脈内に注入した。これを数回繰り返したところ、被験者の脳内にドパミン&μ-オピオイド受容体を介した神経伝達が実際に起きたのである。
(中略)
被験者が『鎮痛効果のある薬』の作用を大きく期待した場合ほど、NAc(側坐核・筆者)におけるドパミン活性が大となり、μ-オピオイド活性も増加して鎮痛効果が大きくなった。
(中略)
被験者脳内にドパミンやμ-オピオイドの代謝変動を起こした『薬』とは、ただの生理食塩水にすぎない。脳内に劇的な変化を起こさせた鍵は、『期待すること』『希望すること』だけであった。
(中略)
これらの研究成果は、医師への信頼、医療への期待感がもたらす治癒力の大きさをも示唆している。Placebo analgesiaが成立するには医師の言葉や表情、白衣、錠剤の形状、病院の建物など、期待を抱かせる根拠となる学習や記憶、認知機能が必要である。」

と書かれている。

以前、精神科クリニックで勤務していたとき、職員から製薬会社の関係で薬の形状が変わったら前の薬より効かなくなったという患者がいて困ったという話を聞いた。上記に錠剤の形状がPlacebo analgesiaに関係あると書かれている。この事実は薬の形状が変わることでPlacebo analgesiaが作用しなくなり、薬の薬理効果のみとなったため、結果として効果が弱まったと想像できる。興味深い体験談だ。

著書の内容は医師や医療機関に関して書かれているが、我々の施術においてもそのまま当てはまるのではないだろうか。

八事整形会で著者の半場先生は「慢性痛の緩和には医師が患者の話をしっかり聞くことが極めて重要です」と締めくくられた。

これもまた我々鍼灸マッサージ師に通底することだろう。


0 件のコメント: