2011/08/30

地球ゴマ

仕事場の近くに風格を滲ませた建物がある。
日本風の屋根瓦の周囲に松を中心とした庭園。
その片隅に昭和を思わせる洋風の事務所。
さらに木造の工場。
全体を囲んでいるのが杉板の黒塀。
この風格は只者ではない。

そこは何かの会社である。
表札には「タイガー商会」と書かれている。

好奇心旺盛な知人がネットで調べた。
それが以下のサイトである。

http://www.aibsc.jp/nsj/02syou/110801_01/print.shtml

「タイガー商会」はあの懐かしい地球ゴマを制作している会社だった。

地球ゴマ。
地球の自転の原理で立ち上がるコマだ。
普通のコマと異なり軸の上下を一枚の薄く細い板が丸く包んでいる。
さらに赤道のようにもう一枚の細い板が横に包んでいる。
この縦横の丸い囲いによって違って回転している最中でも持つことが可能となる。
ここが普通のコマとは大いに異なる点だ。

軸の穴にタコ糸を通し、強く引っ張るとブーンと音を立ててコマが回転する。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9C%B0%E7%90%83%E3%82%B4%E3%83%9E

子供の頃、雑誌に広告が出ていた。
みんな欲しがった。
しかし子どもの小遣いでは手が届かない高級玩具。
親に買ってもらった級友は英雄になった。

その会社が今池近くの街中に存在していたとは。
しかも昨今全く目にすることもなく、すっかり忘れていた地球ゴマが細々ながら製造を継続されていたとは。
我々にとって単なる玩具だった地球ゴマ。
今は科学教育の現場にしっかりと根づき、その方面からの注文に製造が追い付かないという。


地球ゴマが誕生して九十年。
会社も社員も古い。
現在は高齢者ばかりで維持している「タイガー商会」。
それでも喜ばしいことに最近若い社員が入って技術の伝承に余念がないとか。


街は日々壊されては作り直されている。
破壊と再生の繰り返しが歴史となって街を維持している。
けれども歴史に取り残されたような街の片隅にしっかりと生き残っているものがある。
また、昨今、そうしたものが見直されているようでもある。


タイガー商会の建物の風格は只者ではない。
誰もが心惹かれる贅沢な作りであるが、決して威をひけらかすことなく、むしろ端正に街に溶け込んでいる。
そこには歴史の中に確かに存在してきた矜持が漂っている。

内山公園の前を通ることがあれば一度注意して探してみて欲しい。





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