2020/08/05

『五輪の身体』斎藤孝著

『五輪の身体』斎藤孝著

今を時めく身体論の寵児斎藤孝さんが近著でわたしの経絡指圧の恩師増永静人先生に触れています。
うれしいですね。
ハンマー投げの室伏選手との対談です。
以下に引用させていただきます。

室伏 力まかせに投げているイメージがあるんでしょうね。でも力じゃない。実はいま、僕が何もしないでもハンマーが飛んでいく方法が見つかりそうなんです。

齋藤 何もしないで? ついに空気投げか何か(笑)?

室伏 ハハハ。体操選手が大車輪をやるとき、自分の体重の何倍もの重さが手にかかってくるでしょう。でも、引っ張られることに対しては耐えられる。筋肉には能動筋と受動筋があって、受動筋は非常に強いんですね。

齋藤 受身の方が強い。

室伏 そうです。僕らもそういう筋肉を使ってるんです。いくら鍛えて握力があるといっても、せいぜい100キロぐらいですから。300キロ、350キロという重さを支えられるわけがない。だから、より受身に徹さなきゃいけない。飛ばそうと思えば思うほど、受身になっていく。

齋藤 ある意味、ハンマーに回されているわけですね。

室伏 なんか宇宙っぽいんですよ。僕とハンマーが回転しながら、さらにサークルに沿って回っている。自転と公転みたいな。

齋藤 いわれてみれば、動きも楕円運動だし、引っ張りつつ引っ張られているという引力関係にも似てますよね。

室伏 そこのバランスが全部うまくとれなきゃいけない。僕はコスミックスポーツって呼んでるんですけど(笑)。

齋藤 コスミックスポーツ。その受動感覚は面白いですね。自分が回してるんだけど、回されてもいるって感覚が。昔、アルバイトで指圧をやってたんですが、強く押しすぎてしまう傾向があった。ツボだと思うと、ついグッといっちゃうんだけど、「痛い」とか文句いわれて。そのときに、意識を反転させてみたんです。

室伏 押してるんじゃなくて、押されてる?

齋藤 そう。押してる圧力は変えない。でも、押されてるんだとイメージしただけで、相手がゆるむんですね。一体感が出る。増永静人さんという人が「支え圧」という指圧をやっていて、「筋力で押すな。自分が液体化して、相手と一体になるように支える感じがいいんだ」といってるんです。そういうイメージですね。

『五輪の身体』齋藤孝 2004 日本経済新聞社
引用箇所(pp.34-36)

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